僻地での修行時代、壁にぶつかりもがいていた時代。大町時代。
そんな私にアメリカ帰りの指導医はこう言った。
「言語化してみてください」
思うに言葉で考えるのが人間なんだから、言葉のない所に思考はない、ゆえに言葉が人類最大の発明と言われるのだろう。
ならば絵とは何か。芸術の存在価値とは何か。
この世に言語化できない(無数の)ものの持つ意味とは何か。
グーグルなどで簡単に検索できることを知っていることにどれほどの意味があるのか。
モネのタッチを知っているからといっても描けないし、フェルメールの明暗を知っていても描けるわけじゃない。
私はとうの昔に頭で考えるのをやめた。それも相当の覚悟と勇気を持って。
頭じゃなく身体で覚えてきたんだ。
そうして身につけた外来診療は、あの大町時代の何倍もの患者を、大きなミスなく診察することを可能にしてくれた。
どうやら私の考えは間違っていなかったようである。